202. Remember Nothing

放送日:1996年10月7日

Xena: I wish I'd never followed the sword in the first place.
 ライシアスの死はこのエピソードから11年前。Corteseに刃向かうことを主張したジーナに賛同した彼はその時殺され、彼女は今でもそのことを後悔し、弟の死に責任を感じていた。ジーナとガブリエルは彼への弔いのためにFates神殿に訪れる。そこへ、金目のものもなさそうなのに何の目的があってかは不明だが、神殿への襲撃を試みる者たちが現れた。彼らを撃退している内、背後から襲ってきたものがまだ幼さを残した少年だったことに、剣で彼を貫いてしまった後にジーナは気づく。
 ちょうどライシアスが命を落としたくらいの年齢だったのだろう、神殿を守ってくれた礼に褒美を授けようというFatesに対し、彼女は殺した少年の命を取り戻したい、いやむしろ、そもそも自分が剣を取っていなければ、と吐露する。それを聞いたFatesは彼女らをして司る運命を変え、ジーナをもしもの世界へ運ぶ。

Xena: Xena, Warrior Princess, never existed. But the world's a better place without her.
 もしもジーナがその剣に人血を吸わせる戦士でなければ・・・・。
 ライシアスは死なず、ジーナと共に成長している。Corteseに刃向かったものの丘に追い詰められ、逃げて助かっていたのだ。村は荒らされたが、多くの村人は命を落とさずに済んだ。しかし、母シレンは略奪のために心を痛め、その後の村の復興を見ることもなく10年近く前に亡くなっていた。いずれにせよ、家族の1人は損なってしまう運命らしい。ジーナがライシアスの死に責任を感じていたように、ライシアスが今度はシレンの死に責任を感じている。 それでも、流血を好むWarrior Princessとなって母親の顔に泥を塗ることもなく、ガブリエルは家族と共に平和に暮らし、ライシアスを死なせることはない。Warrior Princessが存在しない方が世界はより良くあるようにこの時のジーナには思えた。
 だが、Warrior Princessの存在を欠いたこの世界では、彼女が倒したはずのメゼンティアス(105. The Path Not Taken)、クライカス(110. Hooves and Harlots)らは生きており、なお悪いことに連合を組み、悪事を働き続けている。村人は搾取され、アマゾンとケンタウロスはクライカスの策にはまり、ほとんどは死に、生きているものは奴隷にされた。
 Warrior Princessが助けることのなかったガブリエルはあのままDracoの部下にさらわれ、奴隷としてメゼンティアスの下で使われている。微笑みは失せ、巧みな話術を使うこともなく、全てを諦めている。脱走を試みたこともあるようだが、気概はあってもWarrior Princessに危険から切り抜ける術を学ぶことのなかった無力なままの彼女は失敗し、鞭打たれたようだ。彼女の顔には絶望と諦念と書いてある。

Gabrielle: You better look again. It's not me.
 もちろん、ジーナはガブリエルを助け出す。こちらの世界に踏み入る前のジーナにはそこまで思い及んでいなかったものの、結果として、生きたライシアスを望んだ代わりにガブリエルを諦めなければならないところだった。だがやはり運命と言うべきか、ガブリエルが目の前に現れ、ライシアスと自分と共にいる。ジーナにとってはこれ以上望むべくもない理想郷だ。しかし、このガブリエルはジーナを知らない。人を信じられなくなっているガブリエルの信頼を得、本来あるべき姿へ彼女を導こうとする。母シレンの服を着せ、彼女がそれを失ったために死んでしまった心をガブリエルに与えることで、時間さえかければジーナの知るガブリエルを取り戻せると考えていた。

Lyceus: Given time, they'll be unstoppable.
 だが、剣を取って戦わなかった負債がすぐさまやってくる。ライシアスを失わぬために、ガブリエルを守ることができない。再び自由を得るという希望をガブリエルに与えたが、ライシアスが投げてよこした剣を拒否する。そうして3人は共に拘束されてしまい、檻に閉じ込められる。ジーナの婚約者マフィアスは、ジーナの安全を確保するためにガブリエルの居場所を教えてしまい、それが原因となって3人は檻に閉じ込められてしまったわけだが、そのマフィアスに助けられ、3人は脱出する。しかし、後は逃げ出しさえすればいいという段になって、ライシアスの姿が見えない。正義感の強い彼は、ジーナが剣を取らないことで抱え込んでいる負債に立ち向かおうとする。この負債は放置しておけばおくほど、ますます膨れ上がっていくだろう。メゼンティアス、クライカスに加え、Fates神殿を襲撃していた格闘家カプティウスまでやって来た。3人の権力と戦略と必殺技が合わさればもはや敵なしと杯を掲げたところへ、ライシアスは踊りこむ。

Gabrielle: You gave me hope.
 続いて参戦したジーナはライシアスから剣を受け取ることになるが、それを用いようとはしない。血を流さすことさえなければ、この世界を維持していくことができるのだから。しかしその時、驚くべきことにこちらの世界のガブリエルはメゼンティアスを殺す。拾った剣で突き刺した時点では正当防衛と言えなくもないが、もう一度力を込め、明らかな意図を持って致命的な一撃を与えている。どんなに相手を憎悪していようとも、殺人を犯して平気な彼女ではなかったはずだ。もはや別人である。
 粗末な奴隷の服を着た全てを諦めたままの彼女なら、そもそも剣を拾い上げさえしなかっただろう。シレンの服を着、外の普通の生活の味を占めてしまった後に、初めて自発的な行動が見られる。それまでの彼女の心は鈍磨し、凝固し、無感動だったが、シレンの服を着ることによって何かを感じる心を覚醒させ、微笑みや涙をもたらした。けれども、ガブリエルが手にしたものはライシアスが持つものと同じく剣ではあっても、それを振るう心は全く別物だった。もうあの奴隷の生活に戻りたくない彼女は、信念なき利己的な心で剣を握り締め、憎しみの対象を貫く。希望という名の剣は両刃でできていた。

Krykus: By combining your muscle, my strategies and Caputius' deadly arts, we'll more than triple our take.
 剣を手にし続ければ、その剣がいつしか血で濡れることは避けられないだろう。だが、剣を持たねば心を奪われ、流血を回避すれば希望を挫くことになる。希望を持ち続けなければ、心は死んでしまう。心がなければ、希望を持つことはできない。ライシアスの人を救おうとする愛情が握り締める剣は、彼に足りない経験や知恵を求めてクライカスを貫き、ガブリエルの自由を欲する憎悪が握り締める剣は、力を求めてメゼンティアスを貫いた。
 剣を持つことの代償をジーナは覚悟する。母シレンの死へのライシアスの後悔も、ガブリエルの麻痺した精神も、皆自分が引き受けよう。愛する人を失う痛みや、無感動に人の血を流させる心の荒廃を呼び寄せてしまったとしても、ライシアスの意志を受け継ぐ道を選んだ。彼は盲目的にジーナを信じていたせいで死んだのではなく、己の信じるもののために死んだのだ。剣を捨てることによって得られるものよりも、剣を取ることによって得られるものの方をジーナは選んだが、それは決してガブリエルのためにライシアスを捨てたということではない。Warrior Princessの光と闇が分割されてライシアスとガブリエルに付与されており、ジーナは彼ら2人ともを選んだのである。ライシアスとガブリエルが彼ら自身であるためには、まずジーナが自分自身である必要があった。そうして、ジーナのライシアスから受け取った剣は、この世界を終わらせる勇気を求めて3人目のカプティウスを貫く。
 現実の世界では、ライシアス亡き後ガブリエルが現れるまでずっと、ジーナは光の側に導いてくれる人がそばにいず闇に身を任せることになる。ライシアスとガブリエルは同じ魂を有しているが、ライシアスと共にいた時のジーナと、ガブリエルと共にいるジーナでは違う。ライシアスが生きていた頃のジーナはただ正義感とか大切な人を守るためだけに戦っていられたが、ガブリエルと今いるジーナはそこに贖罪の意味も込められている。もしもの世界でジーナが別れを言い渡した相手は、実はライシアスではなく、過去の自分だったのである。

Maphias: I guess this means we're postponing the wedding again?
 ジーナにそのことを気づかせるために、女神たちはシレンを死ぬ運命にし、ガブリエルと邂逅する運命にしたかのように思われる。この2人の条件はそんなに必至ではないだろうに、Fatesがわざとそうしたかのようではないか。信念を貫かず心を押し殺したという過去と、現在進行形で守るべき大切な人物を共に配置することで、剣を取らざるを得ない状況が生まれた。母親についてはすでに死んでしまっていてどうすることもできないにしても、ガブリエルが目の前に現れなければどうなっていただろうか。ガブリエルを外に連れ出すことによって自由を得る希望を持たせ、母親の服を着せることによって奴隷の生活に戻ることを厭う心を呼び覚まさなければ、ジーナは過去の自分を懐かしがり、現実から逃避し続けられていたかもしれない。いずれにせよ、村が搾取されることは避けられず、剣を取らざるを得ない状況にはなったかもしれないが、自ら故意に元の世界に戻ろうとはしなかったかもしれない。婚約者のマフィアスは、ジーナの揺れる心であり、10年以上にわたって婚約期間を置いているモラトリアムなのだった。モラトリアムが3人を檻に閉じ込めるが、ジーナの心が傾きかけると短剣を用いてそこから脱出することができ、最後の戦闘に至ってはジーナが彼に剣を渡している。

Gabrielle: You don't even know me. — Xena: Maybe you don't know yourself.
 ところで、ライシアスとガブリエルがお互い惹かれあうかのような場面があるが、これはつまりジーナの光の部分と闇の部分は惹かれあってしまうのだとも受け取れる。現実のガブリエルとライシアスがとてもよく似た存在であるという含みもあるのだろうが、しかし、もしもの世界のガブリエルとライシアスは正反対の存在である。そんな彼らを見てジーナが微笑んでいるのが、何とも皮肉だ。闇を忘れたかったというのに。
 タイトルのRemember Nothingとはガブリエルのこと。ガブリエル本人を含め他の誰もがガブリエルのことを覚えていない、または知らないが、ジーナだけが彼女を覚えている。翻って、ジーナだけがジーナの闇を覚えている。そして現実のガブリエルへのジーナの想いこそが、もしもの世界のガブリエルに闇を招来するのである。

Gabrielle: It's beautiful. — Xena: So was she.
 もしもの世界のジーナは、現実のジーナのように悪行を犯すこともなかったことになっているため、またライシアスが死ぬこともなかったため、そのことへの後悔もない。したがって、ジーナの後悔を象徴する母シレンは死んでいるわけだが、たとえ負の感情であれ心もまた死んでいるのである。奴隷生活を送る内にガブリエルの心は固く閉ざされ何も感じずにいたが、ジーナが母親の服を着せることによって彼女の心は解放され、憎悪が顔を見せた。その憎悪が剣を拾わせ、本来ならWarrior Princessが殺しているはずだったメゼンティアスを貫いた。ガブリエルがここではWarrior Princessの闇、憎悪や後悔を背負い込んでしまっているのである。ガブリエルに闇を植えつけてしまうくらいなら、とジーナは剣を振るい、過去の自分と決別する。
 このことによって、ガブリエルの立ち位置がかなり複雑なものであることが判明する。ジーナを光の側に繋ぎとめる役目を果たしているガブリエルこそが、実はジーナに闇をも背負わせているのだ。ガブリエルとライシアスはよく似ているようで、実は根本的に異なった存在であり、ガブリエルはライシアスの身代わりというわけでもない。光の時代と闇の時代を経て今のジーナがあるわけだが、ガブリエルのそばにいることによって彼女の光と闇は調和しているのだ。

Xena: I'm more myself than ever.
 最後に、Warrior Princessに戻ったジーナは、ガブリエルによって背後から迫る危険を警告される。兜で顔を覆われたままのカプティウスを剣で貫くと世界は現実へと帰ってきたが、そこはまだ少年の兜が外れる前の時空間だった。物事の結末は、その時に至るまで決して見ることの叶わぬものである。その結末を覆い隠していた兜が剥がれ落ち、死んで動かぬ顔ではなく、今度は表情のある顔が現れた。自分のしていることがどういう結果に繋がるのか知らされ、怖気づいた彼が立ち去った後、ガブリエルからライシアスの幸運のお守りを手渡される。世界が現実へと変わった時、もしもの世界へ移行した直後ではなくその少し前の時間へと運んだものは、ライシアスからの贈り物だったのかもしれない。剣を持つこと、すなわち自分の行動に付き纏う結果への恐れを克服することにより、ライシアスが希求した知恵とガブリエルが希求した力が再統合され、ジーナはより自分自身となった。ライシアスの幸運で未決定の状態へ遡り、ガブリエルの警告によって己の背後に潜むものに自覚的になったジーナの行動へと繋がる。

Xena: Do you think the Fates have our lives planned out?
 運命の女神たちがその顔を覗かせていたのは、原因の部分、条件設定だけである。過程はジーナの意志で進められ、それが結末へと帰着した。とは言うものの、女神たちが采配した条件からは、何度繰り返そうと同じ結果が生じたのではないだろうか。その過程も結末も、原因から生じた変えられぬ宿命、既定の結論となっていたのでは。そもそも冒頭でジーナは運命の神殿を守っている。常に戦うことを主張していたライシアスの口からは己の宿命に抗うなという言葉が聞かれ、Warrior Princessとして宿命付けられた現実へと帰ってきた。殺したはずの少年を救うことができたのは、ジーナという条件が前回とは異なっていたからである。2度目の機会を得られたのはライシアスの幸運によるものだとしても、少年の命を願ったジーナに褒美を約束した女神たちはいったいどこまでを操っていたものか。解答を得られそうもない疑問を残しつつ、ジーナたちは神殿を後にする。



■余談
 本エピソードは、フランク・キャプラ監督の『素晴らしき哉、人生!』に敬意を表している。

 ガブリエルはArgoに乗ることを躊躇しているが、まだ馴れていないのだろうか。そんなはずはないのだけれど。この冒頭のシーンでは、ガブリエルは青いブラウスに茶色のスカートという昔の服を着ている。このエピソードの着想自体は第1シーズンにすでにあったものだったそうなので、その時のシーンを再利用したのだろうか。

 なぜFatesの神殿に訪れることがライシアスへの手向けとなるのか。ライシアスの運命の糸を割り当て、紡ぎ、断ち切ったのがFatesであるからだろうか。それともギリシアの神々信仰者にとっては、死者に祈りを捧げる場合にはFatesと相場が決まっているのか。

 もしもの世界に兄のTorisはおくびにも出てこない。ライシアスはジーナが唯一の家族だと言っている。また、この1つ前のエピソードに登場した息子Solanについても、彼が誕生しないにもかかわらず、そのことを悲しんではいない。他にもWarrior Princessが存在しないせいで変わってしまうことは山ほどあるだろうが、このエピソードの趣旨に沿わないことは省略されている。
 ガブリエルの家族がどうなったかについても一切触れられていない。彼女の家族も同じように捕らえられ奴隷にされるか、殺されていたものと考えられるが、彼らを登場させてはRemember Nothingではなくなるし、愛する家族の存在があってガブリエルがくじけ、心を明け渡してしまうなどとはとても思えない。自ずと憎悪と復讐心が芽生え、メゼンティウスに気に入られていたようだし、ジーナがいなくても彼を殺そうと思えばその機会はいくらでもあったかもしれない。
 このように物語に不都合な部分は全て除外されているので突っ込んではいけない。

 文章の流れからそうは書いたけれども、ライシアスは実際にはクライカスを剣で貫いてはいない。しかしおそらく、ライシアスがクライカスを剣で刺しているシーンはもともとあって、カットされたのではないかと思う。ライシアスがクライカスを、ガブリエルがメゼンティアスを、ジーナがカプティウスを剣で貫くことで、もしもの世界は終焉を迎えるはずだった。しかし、ライシアスがクライカスを剣で貫くと、彼の剣が血まみれになりキャラクターに相応しくはない。あるいは、ガブリエルが殺人を犯すという驚愕が弱まってしまう。そのためライシアスがクライカスと戦っているシーンは大部分カットされた。3人の悪漢たちはそれぞれ知恵、力、勇気を表しており、それがジーナに再結合されることで現実へ戻ることへと繋がっていくのだから、ライシアスがクライカスを剣で貫くシーンは必要だったはず。断定はできないけれども私はかなりの確信を持ってそういうシーンがあったと思っている。そのシーンがカットされたせいで、ガブリエルがメゼンティアスを殺すところばかりが強調される形になり、ジーナがついに血を流させた相手がカプティウスであることは、もうほとんど気づかれないようになってしまっている。Fates神殿を襲っていた人物であることが、同じ鎧を着ているということと「deadly arts」という台詞でしか判断できない。そのため、3人の敵の正体がライシアスたち3人各々の剣の目指すところであったという表現はかなり薄れてしまっている。とはいえ、これはライシアスとガブリエルがジーナに統合されたという表現によって十分代替可能なので、剣先が向かうものが何であったかに固執する必要はなかったのだろう。その点が少しもったいなかったような気がするが、このエピソードの完成度は高い。3人と言えば、本当は3人目の運命の女神ももしもの世界に登場させるべきだったのだろうけど、彼女を登場させると最後の結末へと至るスピード感を殺すことになるから、これで良かったと思う。

 103. Dreamworkerにおいても、ジーナはガブリエルが殺人を犯すことから絶えずを守っているのだが、後のエピソードでガブリエルは結局人を殺すことになる。しかし、ガブリエルがむしろそういう運命にあったことに、書いていて改めて気づいた。ガブリエルが闇を手にする機会をもしかしたらジーナが奪っていたのかもしれないと考えるならば、その闇をガブリエルがジーナから改めて吸収していくという話でもあるのかもしれない。そしてガブリエルの場合は、ジーナのように光か闇に極端に走ってから両方を融合させるのはなく、光のみの状態であるところに闇を少しずつ取り込んでいくという遅効性進行型なのだ。で、やはりガブリエルにとってもジーナの存在が彼女の調和を生み出しているのである。もしもの世界でもジーナがガブリエルに出会うことになったのは運命の仕業だったかもしれないが、2人はこのエピソードにおける剣と流血の関係のように、運命云々ではなくもっと深く原理的に結びつきあっているのかもしれない。

外部リンク

 IMDb
 Whoosh!
 Xena Wiki

記載日

 2009年1月31日

更新日

 2009年5月9日